コーヒーハンターJosé. 川島良彰 Interview
コーヒーとサステイナビリティ
「コーヒーで世界を変える」

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ミカフェートのミッション
「コーヒーで世界を変える」に込めた想い

コーヒーは生産者だけでも世界で2,500万世帯を超えると言われる世界最大規模の産業の一つです。また、加工を前提とする農作物なので、大量の水や資源を使い、生産国と消費国でさらに大勢の人が生産工程に関わります。このため、コーヒー業界をサステイナブルにする影響の大きさは、底知れません。そこには、主に熱帯地方の途上国が生産し、先進国が消費するという世界の格差問題もあります。つまり、コーヒーは本業を通じて新しい価値の創造(Creating Shared Value, CSV)が達成できるのです。そこで、生産者と協働して品質を高め、国際相場にとらわれず品質に対し対価を生産者に払うダイレクトトレードで新しいビジネスモデルと市場を作り、コーヒーで世界を変えようと起業しました。

 

世界中の農園での体験で学んだ、
サステイナブルコーヒーの重要性

エル サルバドル時代

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コーヒー生産国に30年近く住み、様々な体験をする中で、サステイナブルではないコーヒー生産が招く結果を目の当たりにしました。1975年に18歳でエル サルバドルのコーヒー研究所に留学した際、上流階級の家庭で恵まれたホームステイ生活を送っていたのですが、実はその生活は貧困に苦しむ多くの人々の犠牲の上に成り立っていることにすぐ気づきました。その頃のエル サルバドルの格差社会は、まさに天国と地獄が表裏一体で、その後改革を求める宗教関係者や学生が蜂起し、1977年頃から各地で衝突が発生し泥沼の革命・内戦へと突入していきました。内戦が終結した1992年までに、多くの人々の命が失われ、大量の難民がアメリカに密入国しました。世界第3位のコーヒー生産国だったエル サルバドルの社会基盤は崩壊し、経済は疲弊しコーヒー研究所も閉鎖されました。今でも、資産家階級にサステイナブルな精神があり労働者の暮らしを気遣うことができていれば、内戦は防げたと信じています。また政権を勝ち取った改革派も、汚職まみれにならずサステイナブルな政治をしていれば、エル サルバドルを立ち直せるチャンスは十分あったのではないか。

ジャマイカ時代

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1980年代にはジャマイカでコーヒー農園開発に携わりましたが、その頃すでに世界に名を馳せていたブルーマウンテンコーヒーの産地の環境問題は深刻でした。コーヒーがブルーマウンテンの環境を破壊しているとまで言われました。しかも、農薬散布に従事する農園スタッフに半年一回の健康診断をしてくれる医師すら、なかなか見つからない。ブルーマウンテン山脈にコーヒー産業があるからこそ、村を興すことができる。だからこそ、人権や環境を守らなければならないと痛感し、様々な改革を起こしました。

その後赴任した先進国唯一のコーヒー産地であるハワイでは、コーヒー産業が後継者不足で衰退していきました。重労働で実入りの少ないコーヒー産業には魅力がない、というわけです。

コーヒーとSDGs

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実は、2001~2003年にコーヒーの国際相場が暴落し、「コーヒー危機」が起こっていました。世界中でコーヒー農園が放棄され、放牧地に変わり、生産者がいなくなるのではないかという時代に、日本のコーヒー業界は市場価格が下がったことも知らせずに、利益を得るのに奔走していました。生産国の現状を知る者として、サステイナブルではない社会の仕組みはいずれ崩壊していくと訴えたのですが、誰も耳を傾けてはくれませんでした。

そこで、自分が農園と直接取引することで、生産者パートナーもサステイナブルになっていく、新しいビジネスと市場を作ることにしたのです。

最近日本ではSDGsが巷に溢れていますが、実はSDGsの17の目標は、すべてコーヒー産業が取り組んできたことの縮図です。一方、SDGsの真意と意義を、グローバルな視点から理解できている人は日本にどれほどいるでしょうか?また、それがコーヒーとつながっていることは、ほとんど知られていません。
そこで、2021年3月に「コーヒーで読み解くSDGs」という本を出版しました。

 

ミカフェートのサステイナビリティへの取り組み

PROJECT - Creating Shared Value -

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ミカフェートには、主に3つのビジネスモデルがあります。

一番直接的に生産地に貢献するのが、「プロジェクト- CSVプロジェクト -」です。これは、世界の様々な社会問題を、コーヒーで直接解決していこうというもので、コロンビアの知的障がい者施設と取り組む「フェダール農園支援」、タイの王室財団プロジェクトであるケシ栽培からの脱却を目指す「ドイ トゥン開発プロジェクト」、JICAとのパートナーシップによる大虐殺後の平和構築の一環としての「ルワンダ技術支援」があります。新型コロナウイルスの感染症が拡大する前までは、一年のうち150日はコーヒー生産国を巡り、農園指導を行ってきましたが、特にこの3つのプロジェクトには栽培種の選定や苗の育成から始まり、畑の作り方や精選技術まで多くの指導をしてきました。

MI CAFETO PARTNERS

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2つ目のビジネスモデルが、「ミカフェート パートナーズ」と呼ばれる生産農家から直接買い付けするシングル エステート コーヒーです。サステイナビリティへの取り組みは農園パートナーを選ぶ上で、絶対に外せない条件です。3,000近くの農園を訪れてきた経験から、農園に入ると短時間でその農園の評価ができるようになりました。労働者が暗い顔をして作っているコーヒーは、絶対においしくない。労働者が働きやすい環境を作っている農園は、品質も上がるのです。ただ、ミカフェートの立ち上げ当初はコーヒーの品質に注目が集まってしまい、私自身もサステイナビリティへのこだわりが体現化できていませんでした。そもそも生産者パートナーも世界的に有名な大農園から、家族二人でやっているような小農園までありますし、10年間のうちにミカフェートのコーヒーのグレードもGrand Cru Caféからコモディティまで取り扱うようになりました。そこで、シングル エステート コーヒーに関しては、サステイナビリティの取り組みとして重要な項目をミカフェートの「サステイナビリティ・ゴール」として調査し、個々の農家の状況に適した目標を一緒に設定しました。この取り組みを、2016年に日本企業として初めて「サステナブル・コーヒー・チャレンジ」のコミットメントとして宣言しました。この度、当初のゴールを共に達成できた生産者を「ミカフェート パートナーズ」として、彼らのサステイナビリティへの取り組みのハイライトを皆さんにも知っていただくために、公開することにしました。

MI CAFETO STORIES

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その他、個々の農園レベルまでトレーサビリティが確立できなくても、コーヒー自体に様々なサステイナブルなストーリーが隠されている「ミカフェート ストーリー」シリーズは、修道院や辺境地に赴く仲買人など、私が今まで築いてきた大切なパートナーシップに基づくもので、それらのコーヒーをストーリーとともに日本に届けること自体に意義があります。

そして、ミカフェート コモディティ コーヒーでは高品質な認証コーヒーを取り扱っていますが、これもやはり生産地の農協まで赴き、直接買い付けしています。というのも、やはり組合員(生産者)が信頼する農協は民主的で、女性生産者への支援や融資プログラムなど、実にいろいろな取り組みをしています。そういうコーヒーは、必ず品質も良いものです。

 

ミカフェートがコーヒーで目指す世界

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私は、スペシャルティ コーヒーの会社を作ったのではなくて、どこの農園でも、その環境でできる最高のものを作ることを目指しています。そういう意味では、生産者と目指す山の頂上は一緒で、山登りのルートが違うだけです。

最近の日本は世界に背を向け、内向きになっているように思います。資源の少ない日本は世界の国に支えられているのに、それではこれからの世界を生き抜くことはできません。一方、コーヒーに品質だけでなく、サステイナビリティを求める顧客層が現れ始めました。コーヒーを通して、はじめの第一歩を皆さんとともに歩み、コーヒーの持つ意義をともに考え、その味の違いを実感していただきたいのです。

生産者が幸せに、ひ孫の代までおいしいコーヒーを作り続け、それをともに楽しめる未来を実現する。それがミカフェートのミッションであり、私の夢です。