
カルメン農園(パナマ)のGrand Cru Cafeは、年間1,200袋の高級コーヒーを産する農園において、家族用に特別に育てられたコーヒー豆。コーヒーハンター 川島良彰の計画に賛同した農園主の好意により特別提供された。
2008年度は一貫してフルーティで後味が明るく、ボディ・酸味ともに強い。2009年度は後味にナッツの香りを感じ、酸味は弱めで甘みが強い。
後味に長く残る透明感とフルーツの香り。6農園の中では、もっともフルーティーでほとんどのスイーツと相性が良い。
1950 年、弁護士のエフライン・フランセスチと妻のカルメンは、中央アメリカで最も高い火山のひとつであるバルー火山(標高3,475 メートル)の北斜面に位置するボルカン村に土地を購入し、コーヒー栽培を始めた。都会で仕事に追われる生活を離れ、田舎暮らしをしながらコーヒー農園を営むことが夫婦の長年の夢であり、最適な土地を探し続けて、ようやく見付けたのがボルカン村のパソアンチョ渓谷だったのだ。妻の名前からカルメン農園と名付けた。彼らの孫で、幼い頃からコーヒー農園で遊んでいたのが現在のオーナー、3 代目のカルロス・アギレラ・フランセスチ。
開園当初から環境と地元インディオの生活を守り、向上させることを念頭にコーヒー農園を経営するフランセスチ一族の意思はカルロスにも引き継がれ、カルメン農園は地球環境保全のために熱帯雨林を維持し、持続可能な農業をサポートすることを目的に設立された国際的な非営利団体、レインフォレスト アライアンス(RA)の認証を受けている。
カルロスとは、アメリカで行われたコーヒーの会議で知り合った。イタリア系パナマ人で 根っから陽気なカルロスと、日系ラテン人と言われる僕は、その場で気が合いアミーゴスになった。しかし彼の農園を訪れる機会にはなかなか恵まれなかった。2006年12月、初めてパナマの産地を訪れた際、コーヒーの名産地として名高いボルカン村で数多くの農園を見たが、正直ピンと来なかった。生態系や古い品種を守っている農園が多数あり、品質的にも非常に良いものを作っているが、僕が目指すコーヒーを栽培している農園も、生産者にも巡り合えなかった。しかし最後に寄ったカルメン農園に着いた時、久々にゾクゾクする感触が蘇った。ここには、僕を待っているコーヒーの樹があったのだ。

これまで世界中の数千カ所の農園を訪問して来た経験で、農園に入って5分もすれば、どの程度の豆が生産できるか想像できるようになった。オーナーに会えば更にその精度は増す。どんなにお金を掛けた農園でも、そこに植えられている品種、畑のレイアウト、コーヒー樹の樹勢、シェードツリーの管理から、オーナーがどこまで自分の農園を理解し、しっかりしたポリシーを持って、どんなコーヒーを作ろうとしているのかが推測できるからだ。オーナーにポリシーが無い農園ほど、つまらないものはない。
四輪駆動車が悲鳴を上げるような急斜面を、登りきった所にカルメン農園の入口がある。農園内の農道もかなりな急勾配だ。しかしそこからの景色は、素晴らしい限りだった。
彼と一緒に農園内をくまなく歩き回った。隅々にカルロスのコーヒーに対する工夫と愛情が、感じられる。最高部の栽培セクションに行ってみた。風の通り道になっているようで、シェードツリーだけでは足りないのかコーヒー樹も元気がない。立ち止まって見ている僕に気付いたカルロスが、「防風林を植える準備をしているんだ。」と告げた。僕を待っているコーヒー樹は、どこにあるのだろう。二人で農園を下り始めた。

少し下部の急な斜面に、シェードツリーの木漏れ日を浴びて気持ち良さそうにしている、肉厚の葉に覆われたカトゥーラの一群が佇んでいた。僕は引き寄せられるようにコーヒー樹の中に入って行った。純正のカトゥーラ亜種が、整然と並んでいる。時折り聞こえる鳥の鳴き声以外何も聞こえない静寂の中、時間が止まってしまったような感覚に襲われた。

土はホコホコして綿のように柔らかい。風も無くその他の環境も満点だ。ここならさぞかし美味しいコーヒーが採れるに違いないと思い、カルロスを振り返った。彼は、満足気な顔で言った。「ここは、農園で一番美味しいコーヒーが採れるセクションだから、家族が飲むコーヒーのために特別にリザーブしているのだよ」。
この急斜面でコーヒーの精選はできないから、収穫したコーヒーチェリーは、麓の工場までトラックで運搬する。工場に隣接する、祖父母が立てた石造りの家は今でも健在で、僕はいつもこの家に泊っている。農園や工場にいる時のカルロスは、本当に無邪気な子供のようだ。自分の農園が好きで好きでたまらないのがよくわかる。仕事の後、酒を酌み交わしながらのコーヒー談議は、夜中まで終わらない。

2008年1月、再びカルロスを訪ねて僕のコンセプトを初めて説明した。「彼なら僕の想いを理解してくれ、家族のためにリザーブしたセクションのコーヒーを、Grand Cru Cafeとしてデビューさせることを承諾してくれるだろう」。そう信じていたが、あまりに細かいスペックだし、カルメン農園は既に高品質で名が通っている。いつ怒って席を立つか、僕は彼の眼を見ながら話し続けた。僕の説明を聞き終わったカルロスは、いきなり立ち上がり握手を求めながら言った。「素晴らしいプロジェクトに、レセルバ・デ・ファミリアを選んでくれたことを、家族を代表して心から感謝する」。